えいちゃん(さかい きよたか)

えいちゃんのぶろぐ

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澁澤龍彦の著した『三島由紀夫おぼえがき』を読みました。三島由紀夫に関する文章が二十三篇、三島由紀夫との対談が二篇、出口裕弘との対談が一篇。眠れない秋の夜、ほぼ一気読みです。

今年は三島由紀夫生誕百周年にあたり、もっと狂騒的なブームとなるかと思っていたが、そのようなことはなかった。寂しくもあり、ほっと胸をなでおろしてもいます。三島由紀夫の愛国を受け継ぐ右翼団体を一水会ぐらいしかぼくは知らない。三島由紀夫、死して五十五年、月日は経った。集団的自衛権による海外への自衛隊の出動が将来、あって、死して若者がもどってくれば、三島由紀夫は身悶えし、怒り狂うのではないかしら。自衛隊はアメリカの傭兵であっていいのか? 建軍の精神とは何だ? 天皇陛下が海外での自衛隊の若者の死を望んでおられるとでもいうのか? そのような三島由紀夫の声すら聞こえる気がします。そのような声が想像の中で聞こえつつも、その観念による死に一人の若い人を道連れにし、死にいたらしめたということにおいて、ぼくは三島由紀夫を許すことはできないのだけれど。

さて、ぼくは、三島由紀夫の死に関しては、岸田秀の「三島由紀夫論」と『三島由紀夫おぼえがき』の中のいくつかの文章が、もっとも説得的であるように思われる。この本の出口裕弘との対談で三島由紀夫の最後の長編である『豊饒の海』が論ぜられているのだけれど、そこで澁澤龍彦は一巻目の「春の雪」と二巻目の「奔馬」を傑作とし、三巻目の「暁の寺」を衰滅と批評し、四巻目の「天人五衰」を破綻と断じていて、その「天人五衰」の驚くべき終章と同じことが、三島由紀夫の人生にも起きていたのではないかと推測している。夢の中のように生きて、かろうじて生をたもってきた三島由紀夫に、初めて現実の奔流が押し寄せてきたのではないか、と澁澤龍彦は言っている。そこは何もない月の裏側の豊饒の海のごとくの干からびた虚無であろう。『豊饒の海』ほど恐ろしくも美しい、その両方の備わった小説をぼくは知らないのです。

三島由紀夫おぼえがき -澁澤龍彦 著
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山田無文さんの著した『十牛図 禅の悟りにいたる十のプロセス』を読みました。この本は臨済宗の僧侶であらせられた山田無文さんが昭和二十八年(1953年)に祥福寺専門道場にて頭をまるめたかばかりの若い僧侶に向けての「十牛図」の講話を古い録音テープから書き起こし、昭和五十七年(1982年)に禅文化研究所から出版されたものであります。山田無文さんは昭和六十三年(1988年)に遷化されておられますが、やはり高僧の言葉は古くならず、ぼくがいうのも僭越ながら、素晴らしい「十牛図」の解題であります。

昭和二十八年は日本の敗戦からの七年も続いた米軍の占領からと、それの解かれた翌年だと思えば、感慨もあります。敗戦もその後の混乱も持ちこたえた天台の教えに、どこか、新しく始まった日本に、高僧も胸高らかに、心新たになっておられるなにがしかをぼくは読みながら感じました。

章立てによって「十牛図」とはどのようなものかは、想像できそうなので、記します。

第一「尋牛」
第二「見跡」
第三「見牛」
第四「得牛」
第五「牧牛」
第六「騎牛帰家」
第七「忘牛存人」
第八「人牛倶忘」
第九「返本還源」
第十「入鄽垂手」

このように「十牛図」は牛を追い求める十の絵からなり、禅の悟りへのプロセスを表したものということです。この前、読んだ五木寛之さんは自身の著した「諦める力」の中では「返本還源」の後、「入鄽垂手」が来るのが素晴らしいと言っておられました。十の絵も面白く、とくに「入鄽垂手」の絵は驚きでもあります。禅の悟りのなんと楽しきことよ。さて、「第三「見牛」」での無文和尚の話を紹介し、この項を了としたいと思います。

諸国を放浪し、修行と布教に邁進する一遍上人が由良興国寺の法灯国師にお目にかかって歌を示された。
  となうれば仏もわれもなかりけり
       南無阿弥陀仏の声ばかりして
すると法灯国師は、
「そりゃまだ修行が足らん。もうひとつ工夫をしなさい」
さらに三年の工夫をされて、また法灯国師にお目にかかって歌を示された。
  となうれば仏もわれもなかりけり
       南無阿弥陀仏なむあみだ仏
法灯国師は、
「まあ、おまえさんはそこらでよかろう」
そこらでよからうと言われると気になるもので、
「それでは禅師、あなたはいかがですか」と言うと、法灯国師は、
  となうればわれも仏もなかりけり
       裏のお池に風がそよそよ

十牛図-禅の悟りにいたる十のプロセス
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エマニュエル・トッドさんの著した『西洋の没落と日本の選択』を読む。エマニュエル・トッドさんによれば、ヨーロッパとアメリカ合衆国その倫理と道徳の失墜により、没落の最中だという。そこまではぼくも首肯しつつ、日本がアメリカ合衆国の従属国歌であることを脱するのを願いつつ、トッドさんは日本に核武装を勧めていることには疑念もわく。その核武装というのは、いかにも西洋的な没落をもたらす退嬰の様態ではないのかね? などという疑問を感じ、ぼくは、日本は西洋の狂気に巻きこまれることにないようにと願うのです。

世界的ベストセラー『西洋の敗北』著者の最新作『西洋の敗北と日本の選択』エマニュエル・トッド | 文春新書
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『猫と藤田嗣治』を読みました。藤田嗣治の画集なので、読んだというより見たというほうがいいのかもしれません。監修をポーラ美術館の内呂博之さんが行い、文を美術ライターの浦島茂世さんとネコ研究者の荒堀みのりさんが書いた本です。生涯にわたって藤田嗣治は、ここにも猫がいる、あそこにも猫がいる、といった具合に、戦争画の数年間の期間を除いて、猫を描きつづけたのでした。ピカソの鳩、藤田の猫、とぼくは思うのでありまして、しかも、藤田嗣治の猫は、躍動感に満ち、生きているかのようで、いかにも可愛く、藤田自身の猫への愛を感じてしまうのであります。

猫と藤田嗣治
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五木寛之さんの著した『あきらめる力 毎日を愉しむ48のヒント』を読みました。面白くて、ほぼ一気読みです。問答形式で五木さんが、いろんなことの雑感を述べておられます。悲観による人生の肯定というようなことに、ぼくは共感してしまいます。五木寛之さんの本はたくさん読んでいて、ぼくの日本に対する見方は、五木さんの日本の見方によるところが大きいことに、今さらながらに気づきました。ということで、これから読んでみたい本のリストに五木さんの『日本のこころ』シリーズも加わりました。五木さんは近ごろ、長大な『青春の門』の続編を書き始めたそうです。五木寛之さんはフランスのギ・ド・モーパッサンのような偉大な作家だと思います。

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上坂次郎さん、福富太郎さん、川田明久さん、丹尾安則さんの四方の共著による『画家たちの「戦争」』を読む。戦争画とはどういうものか、この一冊でよくわかりました。第二次世界大戦時の日本の軍部はいわゆる戦争画を描くことを推奨していた。軍部の注文による「戦争記録画」もたくさん描かれた。柳条湖事件の1931年から真珠湾攻撃のあった1941年までの中国との戦争で、軍部は大義も挙げられない戦争に戦争画を重宝したという。1941年からアジアの解放だの大東亜共栄圏だのと唱え始めるのだが、それも虚しい呪文に終始し、アジアにおびただしい死をもたらした。

この本で取り上げられている絵が、はたして芸術なのか、軍国主義プロパガンダの宣伝にすぎないのか? 多くは宣伝でしかないだろうが、藤田嗣治の「アッソ島玉砕」や「サイパン島同胞忠節全うす」、小早川秋聲の戦時中は軍部の受け取りと天覧を拒否され、戦後に散る桜の花を作者自身により黒く塗り足された「国の楯」にぼくの心は揺らいでしまう。この三点は展覧会でも見たことがあって、忘れられない。

藤田は画家仲間や批評家の言葉の暴力により一人、戦争協力の汚名を被るようにして、なかば国外追放。フランスでフランス人として客死。小早川秋聲は終戦時、戦犯として捕らえられることを覚悟していたという。小早川は戦後、長く患い、大作は描かないようになり、依頼された小さな不動明王などをほそぼそと描いて過ごしていく。「アッソ島爆撃」で日本軍の爆撃機を描いたシュールレアリストの小川原修は、戦争協力の咎により戦後、美術文化協会を除名となり、生まれ故郷の北海道に戻り、ほそぼそと絵を描きつづるける。その戦後の作品「群れ」は傑作で、小川原の胸の内を生々しく吐露しているかのようなのだ。

無条件な日本万歳というような文章、絵、歌が日本に現れた時、日本に戦争は近く、日本が再びすべてを失う時も近いのかもしれず、それは今なのかもしれない、とぼくは恐れ慄きもするのです。

画家たちの「戦争」 - 福富太郎、河田明久、丹尾安典
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NHKの大河ドラマ『べらぼう』で片岡鶴太郎さんの演じた鳥山石燕、かっこよかっねー。で、『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』を読みました。読むというより画集なので、見るといったほうがいいのかもしれません。いろんなもののけが日本にはいるものだ。どこからが石燕の想像力で、本当に見てしまったものは何なのか? こういう不思議なものがぼくは好きです。

鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集 - 角川ソフィア文庫
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プロフィール
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えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
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