えいちゃん(さかい きよたか)
えいちゃんのぶろぐ

今日は鎌倉芸術館で小津安二郎監督の映画『東京物語』と『秋刀魚の味』を見ました。
『東京物語』の上映の後、映画監督の濱口竜介さんが登壇し、『東京物語』の映像の反復、ずれ、崩壊ということを軸に記号論的分析を行っておられ、圧巻でした。濱口さんの分析に首肯しつつ、ぼくは小津安二郎は映画という技法を持った物語の鬼でもあったとも思いました。
『秋刀魚の味』の上映の後は、岩下志麻さんが登壇され、小津安二郎の思い出話。岩下さんは小津の人柄をとてもやさしくて、声を荒げるようなところを見たことがないとおっしゃっておりました。その半面、演技には厳しく、100回、テストを繰り返し、朝に始めた一シーンの撮影が夕方にOKになるということもあったそう。その次の日、岩下さんは小津に食事に誘われ、小津は志麻さんに、人間というのは悲しい時に悲しい表情をするものでもないんだよ、人間の感情はもっと複雑なんだよ、と言ったということでした。やさしい映画の鬼。
さて、今日は小津安二郎の120年を迎える生誕祭であるとともに、没後60年を迎える日でもあって、ぼくは、おっちゃんこと小津安二郎の戦後のベスト5の映画を考えて、発表してみることにします。
1. 東京物語
1. 秋刀魚の味
同列1位はこの2つの映画とします。言わずもがなの親子の別れを描いた映画『東京物語』と『秋刀魚の味』は、この前、亡くなった坂本龍一さんもベストにあげておられました。この作品の系統には、他に『晩春』、『麦秋』、『彼岸花』、『秋日和』があります。
3. 東京暮色
現代の映画に通じるような小津映画のもう1つの流れをなす中の傑作であります。この作品の系統には、他に『風の中の牝雞』、『宗方姉妹』、『早春』があります。
4. 浮草
二代目中村鴈治郎を主演にした怪作です。『浮草』での中村鴈治郎と京マチ子は本当にかっこいい。この作品の系統には、他に『小早川の秋』があります。
5. 長屋紳士録
戦前の流れをくむ憂いも含むコメディーです。この作品の系統には、他に『お茶漬の味』、『お早う』があります。
どうでしょう? ご参考になりましたでしょうか?
ぼくには小津安二郎の映画は何度見ても面白い。ドイツの巨匠、ヴィム・ヴェンダーズも言っておりましたが、小津安二郎の映画は汲めども尽きないミステリーのようでもあります。


渋谷に出かけ、ユーロスペースで塚本晋也監督の『ほかげ』を見て、ランチにムルギーで、カレーを食べました。
『ほかげ』は、今、NHKの朝ドラ『ブギウギ』で人気の朱里さんが圧巻の演技です。それに子役の塚尾桜雅くんの寡黙さと表情、目が素晴らしい。ついには、この子どもの目に行きついてしまうのではなかろうか? この映画『ほかげ』は今のガザでの戦争とも結び付くのではないかと、ぼくは考えてしまう。子どもも含むパレスチナの市民を殺しまくっているイスラエルの兵士たちよ、君たちは、パレスチナの人々を殺しながら、日々、自分たちも殺しつづけているのだ。そのようなことを考えさせられる『ほかげ』は、今、公開され、見られるべき映画なのだと思いました。
ランチで食べたムルギーのたまご入りムルギーカレーの辛口も、コーヒーも、とても美味しかったです。辛いカレーにふんわり自然なゆで玉子の甘さが溶け合いますな。久しぶりに食べました。
映画「ほかげ」公式サイト


ボブ・スミートン監督の『クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド』を見ました。映画の初めの方はバンドの成り立ちやら、メンバーのインタビューがあり、その後、1970年のヨーロッパ・ツアーのロンドンのロイヤル・アルバート・ホールのライブになります。インタビューで唯一無二のシャウター、ジョン・フォガティは、極端なことを言って人を扇動する極右とか極左は嫌いだね、麻薬をやってへらへら笑っているやつもごめんだね、と答えていたりいます。なんか、かっこいい。アメリカのテレビ・ドラマの『大草原の小さな家』でマイケル・ランドンの演じた主人公のチャールズ・インガルスみたいです。圧巻のライブでは振りきれた演奏と歌がかっこよすぎ。ドラマーのダグ・クリフォードは演奏の途中、シンバルを割ってしまう。その太い腕は森の樵のようで、髭もじゃのその風貌は山の熊のようです。日本語字幕で見られたジョン・フォガティの書く詞はなかなか激しくて、素晴らしい。ぼくはここで「Fortunate Son」を拙く意訳してみる。
♪♪♪
旗を振るようにしつけられたやつもいる
赤と白と青の旗
バンドが演奏するのは「大統領を尊敬しろ」
けれど、大砲はおまえの方を向いているぜ
それはおれじゃない、おれのことじゃない
おれは上院議員の息子じゃない
それはおれじゃない、おれのことじゃない
おれは運のいいやつじゃない
銀のスプーンを持ってうまれてくるやつもいる
あんたは自分で何かできるのかね
ドアから税務署の係がやってきて
家中、ひっかきまわして帰って行ったとよ
それはおれじゃない、おれのことじゃない
おれは大金持ちの息子じゃない
それはおれじゃない、おれのことじゃない
おれは運のいいやつじゃない
星条旗の星を受け継ぐやつもいる
おまえは戦場に送られるのさ
おれの命の値段はいくらぐらいなんだと聞くがいい
やつらはもっと値段を上げてやろうかと口で言うだけさ
それはおれじゃない、おれのことじゃない
おれは高級将校の息子じゃない
それはおれじゃない、おれのことじゃない
おれは運のいいやつじゃない♪♪♪
Foolsの伊藤耕の書く詞のようではないか。ロックンロールを聴いても、ガザで殺されていく市民を思えば、心はまったく晴れない。映画のエンドロールでかかった歌は「Who Stop the Rain」で、ここで歌われている「Rain」とはベトナムで雨のように落とされた爆弾で、それはガザに雨のように、今、落とされている爆弾であるかのようなのだ。半世紀以上が過ぎ、何も変わっちゃいない。畜生。
映画「クリーデンス クリアウォーター リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」公式サイト


東京国際映画祭で小津安二郎監督の『東京暮色』と『彼岸花』を見ました。
『東京暮色』は小津安二郎のもう一つのいつもとは少し違う、『東京物語』が明ならば、『東京暮色』は暗として相並ぶ並ぶ暗く重い名画だと思う。別れ別れとなり偶然に再会した親子を演じた山田五十鈴と有馬稲子さんに胸をつぶされました。批評家に酷評され興行成績もたちいかなかったそうだけれど、今『東京暮色』を見て、ぼくは震撼してしまう。
これはぼくの想像だけれど、小津監督は(役の中で)ネコちゃん(有馬稲子さんの愛称)を殺しちゃったよ、悪いことしたな、と言って、次回作の『彼岸花』を撮ったのではなかろうか? 小津安二郎は(百回撮り直しがあろうとも)スタッフや役者にはやさしい人だったそうだ。
『彼岸花』は『東京暮色』と違い、軽みも楽しさもある作品で主演は有馬稲子さんで、その分からず屋の父を演じたのは佐分利信。佐分利信の分からず屋具合が度を越していて滑稽で笑えてしまう。
『彼岸花』のラストのクラス会のシーンで笠智衆が詩吟するシーンがあるのだけれど、英語の字幕を見て、その詩吟が楠木正成の忠君の歌であるのを知った。このクラス会のシーンに登場する父たちは、戦場に行き、生きのびて帰国した男たちで、静かに戦場で死んだ朋輩を思って詩吟を聞いている。『彼岸花』は戦争が終わり十三年目の映画なのだった。もう一つ聞き逃せないセリフも別のシーンにある。妻の田中絹代が戦時を懐かしみ、あの頃が一番、家族が一体で生きている感じがよかった、と言われ、佐分利信の演じる夫は、おれは嫌だね、あの時代に戻るのは、つまらない奴がいばっていて、と答える。
いかんせん、東京国際映画祭も終わり、ぼくの小津安二郎映画祭も一旦はおしまいです。小津安二郎の映画って同じ人がいつも同じように出てくる。そんなスクリーンの中の父や母、娘、娘の友だち、親戚、飲み屋の仲居さん、会社の同僚、バーのママ、いろんな人たちとしばしの別れが、なんだか寂しい。


東京国際映画祭で小津安二郎監督の『浮草』と『晩春』を見ました。
『浮草』は松竹ではなく、大映の映画で、ドラマ性が強い異色作。松竹の映画の雨はシトシト降るが、大映の映画の雨はザーザー降ると呼ばれたが、その中の諍いの二代目中村鴈治郎の凄み、京マチ子の妖艶。若尾文子の可憐さ、若尾文子の恋人役の川口浩やその母役の杉村春子もいい。五者の思惑と感情がもつれあい、ついに爆発していくという戦後の小津映画にはない激しさ。時代遅れの芸人一座の崩壊と親子の別れの後の微かな希望。
『晩春』は原節子と笠智衆での娘と父親の別れのストーリーの紀子三部作(『晩春』、『麦秋』、『東京物語』)の決定的な1作目。
大きなスクリーンでたくさんの観客の中で小津安二郎の映画を見ると格別な感動がごさいます。


東京国際映画祭で小津安二郎監督の『秋刀魚の味』と『秋日和』を見ました。
小津の映画の中のセリフって、なかなかユーモアがあるなと思います。観客に何度も笑いのさざなみが起こります。
『秋日和』での岡田茉莉子さんが物語を作る重要な役を演じています。『晩春』、『麦秋』、『東京物語』での名女優、杉村春子のような役です。ある時の宴席で岡田茉莉子さんは、小津安二郎に監督にとっての四番バッターは誰ですかと聞いたそうです。小津は杉村春子だよと答えたそうですが、照れ屋の小津安二郎は岡田さんに杉村春子を見習いなさいと伝えたかったのかもしれません。
『秋刀魚の味』も『秋日和』もついには胸にしみじみときますな。両方とも外国人のお客さんも多い。気がつけば外国の人が眼を真っ赤にして、『秋刀魚の味』では、映画の終盤、いろんなところからすすり泣きが聞こえておりました。


東京国際映画祭で小津安二郎監督の『非常線の女』を見ました。
なんと、1933年の無声映画にライブのジャズ演奏付きです。ジャズ演奏をバックにした小津の無声映画がこれまた、ひとつひとつの画面割り、映像がスタイリッシュでかっこい。もちろん、ロウポジションのカメラなど後の小津調の萌芽があり、そのモンタージュは独特のものがあります。そう、30年早すぎたヌーベルバーグのようです。マイルス・デイヴィスが音楽を担当したルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』のようです。
娘むすめした若かりし田中絹代を初めて見ました。コケティッシュにかわいらしい。1930年代の東京という舞台にも驚く。こんなモダンな街だったのか。そして、田中絹代の恋の敵役の水久保澄子という今は忘れ去られた、どこか陰のある女優がなんとも魅力的。何度か自殺未遂を企てた彼女は、フィリピン人の結婚詐欺の事件というのあり、終戦の混乱期から行方不明ということだそう。
小津安二郎は戦前、戦中、戦後の時代の激変をどう見ていたのだろう? その答えは映画の中のどこかにあると思うのです。


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プロフィール
HN:
えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。


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