えいちゃん(さかい きよたか)

えいちゃんのぶろぐ

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東京国際映画祭で小津安二郎監督の『東京暮色』と『彼岸花』を見ました。

『東京暮色』は小津安二郎のもう一つのいつもとは少し違う、『東京物語』が明ならば、『東京暮色』は暗として相並ぶ並ぶ暗く重い名画だと思う。別れ別れとなり偶然に再会した親子を演じた山田五十鈴と有馬稲子さんに胸をつぶされました。批評家に酷評され興行成績もたちいかなかったそうだけれど、今『東京暮色』を見て、ぼくは震撼してしまう。

これはぼくの想像だけれど、小津監督は(役の中で)ネコちゃん(有馬稲子さんの愛称)を殺しちゃったよ、悪いことしたな、と言って、次回作の『彼岸花』を撮ったのではなかろうか? 小津安二郎は(百回撮り直しがあろうとも)スタッフや役者にはやさしい人だったそうだ。

『彼岸花』は『東京暮色』と違い、軽みも楽しさもある作品で主演は有馬稲子さんで、その分からず屋の父を演じたのは佐分利信。佐分利信の分からず屋具合が度を越していて滑稽で笑えてしまう。

『彼岸花』のラストのクラス会のシーンで笠智衆が詩吟するシーンがあるのだけれど、英語の字幕を見て、その詩吟が楠木正成の忠君の歌であるのを知った。このクラス会のシーンに登場する父たちは、戦場に行き、生きのびて帰国した男たちで、静かに戦場で死んだ朋輩を思って詩吟を聞いている。『彼岸花』は戦争が終わり十三年目の映画なのだった。もう一つ聞き逃せないセリフも別のシーンにある。妻の田中絹代が戦時を懐かしみ、あの頃が一番、家族が一体で生きている感じがよかった、と言われ、佐分利信の演じる夫は、おれは嫌だね、あの時代に戻るのは、つまらない奴がいばっていて、と答える。

いかんせん、東京国際映画祭も終わり、ぼくの小津安二郎映画祭も一旦はおしまいです。小津安二郎の映画って同じ人がいつも同じように出てくる。そんなスクリーンの中の父や母、娘、娘の友だち、親戚、飲み屋の仲居さん、会社の同僚、バーのママ、いろんな人たちとしばしの別れが、なんだか寂しい。
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東京国際映画祭で小津安二郎監督の『浮草』と『晩春』を見ました。

『浮草』は松竹ではなく、大映の映画で、ドラマ性が強い異色作。松竹の映画の雨はシトシト降るが、大映の映画の雨はザーザー降ると呼ばれたが、その中の諍いの二代目中村鴈治郎の凄み、京マチ子の妖艶。若尾文子の可憐さ、若尾文子の恋人役の川口浩やその母役の杉村春子もいい。五者の思惑と感情がもつれあい、ついに爆発していくという戦後の小津映画にはない激しさ。時代遅れの芸人一座の崩壊と親子の別れの後の微かな希望。

『晩春』は原節子と笠智衆での娘と父親の別れのストーリーの紀子三部作(『晩春』、『麦秋』、『東京物語』)の決定的な1作目。

大きなスクリーンでたくさんの観客の中で小津安二郎の映画を見ると格別な感動がごさいます。
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東京国際映画祭で小津安二郎監督の『秋刀魚の味』と『秋日和』を見ました。

小津の映画の中のセリフって、なかなかユーモアがあるなと思います。観客に何度も笑いのさざなみが起こります。

『秋日和』での岡田茉莉子さんが物語を作る重要な役を演じています。『晩春』、『麦秋』、『東京物語』での名女優、杉村春子のような役です。ある時の宴席で岡田茉莉子さんは、小津安二郎に監督にとっての四番バッターは誰ですかと聞いたそうです。小津は杉村春子だよと答えたそうですが、照れ屋の小津安二郎は岡田さんに杉村春子を見習いなさいと伝えたかったのかもしれません。

『秋刀魚の味』も『秋日和』もついには胸にしみじみときますな。両方とも外国人のお客さんも多い。気がつけば外国の人が眼を真っ赤にして、『秋刀魚の味』では、映画の終盤、いろんなところからすすり泣きが聞こえておりました。
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東京国際映画祭で小津安二郎監督の『非常線の女』を見ました。

なんと、1933年の無声映画にライブのジャズ演奏付きです。ジャズ演奏をバックにした小津の無声映画がこれまた、ひとつひとつの画面割り、映像がスタイリッシュでかっこい。もちろん、ロウポジションのカメラなど後の小津調の萌芽があり、そのモンタージュは独特のものがあります。そう、30年早すぎたヌーベルバーグのようです。マイルス・デイヴィスが音楽を担当したルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』のようです。

娘むすめした若かりし田中絹代を初めて見ました。コケティッシュにかわいらしい。1930年代の東京という舞台にも驚く。こんなモダンな街だったのか。そして、田中絹代の恋の敵役の水久保澄子という今は忘れ去られた、どこか陰のある女優がなんとも魅力的。何度か自殺未遂を企てた彼女は、フィリピン人の結婚詐欺の事件というのあり、終戦の混乱期から行方不明ということだそう。

小津安二郎は戦前、戦中、戦後の時代の激変をどう見ていたのだろう? その答えは映画の中のどこかにあると思うのです。
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東京国際映画祭で小津安二郎監督の『父ありき』を見ました。

戦中の映画でこの『父ありき』ではすでに小津調の要素、ローポジションのカメラや家族の別れの劇などは、出そろっていたことになんだかぼくは感心したりします。

公開時は94分ある映画だったのだけれど、戦後、GHQの検閲によって87分の版しか残されていなかったのを、1990年代のペレストロイカ時にロシアで発見されたフィルムをもとに、カットされた部分も可能な限りデジタル修復した今年の92分の版が上映された。その新たに修正・追加されたところに、宴会で武運長久を祈る「正気歌」(「死しては忠義の鬼となり、極天皇基を護らん」という詩)を詩吟する場面とラスト・シーンに「海ゆかば」の音声が加わり、映画は今までの版とはまったく違う印象を残す。

この映画の公開は1942年で、直接の戦争のシーンは出さずとも、戦時と戦争を、まったく戦意の高揚しない暗鬱な形で表現していて、圧巻の「序破急」の「急」であります。『父ありき』の「海ゆかば」は笠智衆演ずる父の沈鬱な鎮魂歌となり、さらに、佐野周二演ずる結婚したばかりの子の暗い未来や敗戦という暗い日本の未来も予感するかのようなのだ。小津安二郎、恐るべし。
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東京国際映画祭で小津安二郎監督の『麦秋』と『宗方姉妹』を見ました。

小津安二郎生誕百二十年、没後六十年の催しで、本編の始まる前に短い小津安二郎のイメージ映画「Shoulder of Giants」とヴィム・ヴェンダーズのインタビュウーも放映されます。「Shoulder of Giants」を見ただけでワクワクしてきて、ぼくの目頭は熱くなります。

英語字幕付きで少なからぬ外国人の観客もいらっしゃっておられるようで、映画が終わって劇場が明るくなると、外国の人が涙をためておられるようでした。本当にこんな日本的な映画が日本を越えて人の心を打つのですね。

ぼくも小津の映画を見ると胸が締めつけられるようです。死を悟ったらしき坂本龍一さんは生前のインタビューで小津の映画を見ると涙が止まらなくなるとおっしゃっておりました。

さて、ぼくは、この東京国際映画祭て小津安二郎の映画を、これから一週間余り、たくさん見ようと思っています。

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石井裕也監督の『月』を見ました。辺見庸さんが相模原のたまゆり園での凄惨な事件から着想を得た小説を原作にした映画です。

この映画はあくまでもフィクションであるとぼくは理解し、その描かれた人間ドラマは社会批評を越えて思想劇でもあり、そのテーマは、小説家や思想家、宗教学者が生涯をかけて答えを求め、答えられずにいるようなものでもあって、そのような深刻なことを二時間半の時間で映画化したものでもあります。否定的なものも含めていろんな見方が議論されていて、それでこそ、この映画が今という時代に必要とされているとぼくは思います。

主人公、堂島洋子役の宮沢りえさんの演技が圧巻ですが、その夫の堂島昌平の役のオダギリジョーさんの演技も素晴らしいです。洋子の同僚の坪内陽子を演じる二階堂ふみさんは、ふと、小津安二郎の映画の杉浦春子のようでもあります。小津安二郎は杉浦春子を自分の映画における四番バッターと呼び、杉浦春子がいなければ、映画が始まらないとも言っていたそうです。誰もが嫌がるであろう全うの汚れ役、悪役のさとくんを演じた磯村勇斗くんの熱演にエールを送りたいと思います。

問題作を次々に世に送り出し、この前、急折された異色のプロヂューサー、河村光庸さんが最後に残してくれたこの映画『月』がぼくを含む見た人に問いかける、そのような映画です。

10月13日公開、映画「月」オフィシャルサイト
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えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
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