えいちゃん(さかい きよたか)

えいちゃんのぶろぐ

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VODで小津安二郎監督の『風の中の牝雞』を見ました。何度目か再見。1948年の日本映画です。

住宅街の中に大きな化学プラントのような建物があるのが何か気になります。車は道を走っていない。

戦後、田中絹代の演ずる夫の戦場からの復員を待つ妻が、病気となった子どものために一夜だけ身体を売るということをし、子どもは回復するが、佐野周二演ずる後に復員となった夫と確執となる、そんな話でした。日本と日本人にとって、この頃が一番、苦しかった時かもしれません。

小津自身、この映画を失敗作と認めている。カンヌ映画祭でグランプリをとった『スパイの女』の黒沢清監督はこの映画を小津の映画の中で異色のカルト的なもっとも重要な映画としている。

さて、ウィキペディアから三つの批評を紹介します。映画評論家の佐藤忠男の批評。

「若い娼婦が隅田川沿いの空き地で弁当を食べるシーンを引いて「敗戦で日本人は娼婦のごときものとなった、しかしそれでも、空き地で弁当を食べる素朴さは保持しようではないか」」

アメリカの作家・批評家であるジョーン・メレンの批評。

「夫婦の子どもの名前がヒロ(浩)であることを挙げ「この名前が天皇から取られたのは偶然ではない」とした上で「彼女は日本人の生活のすぐれた点を守るために身を売ったのである。小津は日本人に向かって、すぐれた点、つまり占領によって汚されることのないと彼が信じる日本人の生活の貴重なものを守るために、新しい社会を受け入れるべきだと語っている」」

フランスの映画評論家・映画プロデューサーのユベール・ニオグレの批評。

「戦後日本の道徳的雰囲気についてのもっとも素晴しい要約のひとつであり、小津作品のなかで戦争の時代を締めくくり、今日もっとも知られた後期作品に先立つ転回点としての作品でもある」

ぼくは、妻の不貞を許せない夫への、笠智衆の演ずるその夫の同僚の言葉が、小津安二郎自身の言葉としてどこか響いているような気もしました。

小津安二郎はこの映画の反省として、二度と戦争にまつわる否定的なことは映画にしない、とインタビューで答えていたけれど、後の映画にも被害、加害の両方を深めた戦争の何某かは、小津の映画に隠れて表出されることとなるのです。
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VODで黒澤明監督の『酔いどれ天使』を見ました。1948年の日本映画で日本映画史上に残る名作です。米兵こそ出てはきませんが、米国占領下の日本が生々しく描かれております。敗戦の日本の当時の人たちは、何かに苛立っていたようでもあるのです。そのささくれは何度も映される水たまりの汚泥に象徴されているようなのです。

黒澤映画に欠かせない志村喬と三船敏郎という二人のスターが共演しております。この映画の題名である「酔いどれ天使」とは志村喬の演ずる飲んだくれの町医者のことを指していることに改めて気づきました。三船敏郎の演ずる若いヤクザと医者との奇妙でもある友情の話でもあります。ヤクザの情婦役の木暮実千代の悪役ぶりもなかなかいい。肺病から回復する少女役を久我美子が演じていて、可憐でいい。汚泥に咲く一輪の花のごとしなのです。久我美子は戦後、廃位となった華族の出で、本当のお嬢さんでもありました。

それにしても、ダンスホールで「ジャングル・ブギー」を歌う笠置シヅ子はあまりに強烈で、演奏するスィング・バンド、クラック・スターも本物の素晴らしさです。
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小津安二郎監督の『長屋紳士録』を見ました。1947年の日本映画です。何度目か再見。

この映画にはいくつかのテーマがあって、その一つが、戦災孤児、浮浪児、ということ。同じ年の映画、黒澤明監督の『素晴らしき日曜日』にも路上生活をする子どもが表されていて、当時の日本で大変な問題となっていたことがうかがわれます。

「長屋」とされているのは空襲後の東京の焼け野原に散見されるバラックの建てものであったりします。すでに東京の町には少しはビルディングも建っている。そんなところにかろうじて残っている人情と礼節を小津は表現したかったのであろう。

老け役ではない笠智衆が登場します。迷子になった子どもを長屋に連れて来てしまう九段の道端で店をだす易の占い師で生計を立てる青年といった役。九段とは靖国神社の参道かと思われ、この「九段」という表現はGHQの検閲を逃れるためかと思われます。小津は後のインタビューで、どうしていつも笠智衆を自身の映画で俳優として採用しているのか、と問われ、ああいう人格者が映画にはいてもらわなくては困る、と答えていたのを思い出します。

貧乏な居間に、後の小津の映画にもよく登場する赤いケトルが置かれていたりします。『長屋紳士録』はモノクロの映画だけれど、あのケトルの色は赤であることを、ぼくは疑いません。

長屋紳士録
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レティシア・ドッシュ監督の『犬の裁判』を見ました。動物好きには悲しいエンディングでありました。やはり飼っていた犬のレオを思い出します。この映画での法廷で裁かれる犬もかわいい。1999年に日本で施行された「動物の保護及び管理に関する法律」のことをぼんやり考えたりします。ペットは家族の一員といいますが、犬とか猫とが好きな人はこの映画を見てほしいと思います。ふと、日蓮宗や浄土真宗では動物も人と同じく救われるという教えがあるのを思い出しました。実話に基づくというこの映画を見て、くれぐれも動物たちには申しわけないような、そんな思いもよぎりました。

映画「犬の裁判」 公式サイト
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VODで黒澤明監督の『素晴らしき日曜日』を見ました。1947年に公開された日本映画です。映画ってすごい。この映画を見ると、1947年の東京に行けるかのようです。終戦だか敗戦の二年後の米国占領下の日本です。

ストーリーは沼崎勲と中北千枝子の演ずる二人の若く貧しいカップルが日曜日にデートをするという話。

ラストの方の演出は『素晴らしき日曜日』の七年前のチャップリンの『独裁者』のようで、スクリーンの中で中北千枝子演ずるカップルの女性が映画を見ている観客に語りかけるというもの。同じような演出に寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』をぼくは思い出したりもします。

あー、『素晴らしき日曜日』に出てくるカップルは青春なのです。東京の町も、日本も青春で、青春とは何もなくて、それでも夢見ることであるような気がしました。ところで、最近、夢見ることを忘れてはいないか? 今のきみはどうだ? 今のぼくはどうだ? 今の日本はどうだ? 忌野清志郎もこう言っておりました。夢を忘れずに・・・
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夜、眠れなくて、ビデオ・オン・デマントで黒澤明監督の『わが青春に悔なし』を見ました。1946年の映画です。戦前の京都大学で1931年の満州事変とも柳条湖事件とも呼ばれるものの勃発時に起こった反体制運動、反戦運動とそれを端緒とするその後の活動家とそれに共感する原節子の演じる女性を主人公としては描いております。

この映画にどれほどのGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の介入、指示、指導、検閲があったかは分かりません。多分、こういう映画を作れ、との指示はあったのだろう。

大げさな演出はいかにも黒澤明の映画という気がします。そう、すでにまぎれもない黒澤映画なのです。

原節子は戦中に満州を舞台にした国策映画『新しき土』という日独合作映画に主演しているのだが、この『わが青春に悔なし』にはどのような気持ちで演技をしていたのだろう? 戦争協力者との汚名を晴らそうと思ったのか、思わなかったのか? 特高警察の刑事を志村喬が演じていて、活動家の母を杉村春子が演じていて、さすがだ、とも思い、この二人は戦後を代表する演技派の俳優で、早くもの揃い踏みです。

歴史は繰り返す、といいますが、昔の京都大学が今のハーバード大学と相似するようなのです。東西の冷戦は始まっていて、GHQの指導やら検閲があるにもかかわらず、「赤」と呼ばれた左翼の活動家を肯定的に描いているのが、少し不思議に思えました。
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ヴィデオ・オン・デマントで佐々木康監督の『そよかぜ』を見ました。1945年の日本映画です。並木路子の演じるみちが舞台の照明係から抜擢されて、コーラス隊の一員となり、メインの歌手となるという物語。

楽団員の平松を演じる斎藤達雄の容貌が日本画家の横山大観みたいで、笑えます。あと、楽団員としては上原謙とか佐野周二など。佐野周二はなかなかいい。この映画から終戦直後の大ヒット曲「リンゴの唄」が生まれる。この映画は戦後のGHQ(連合国軍総司令部)の検閲を通った第1号映画とされ、そうではなかった、検閲はされていないという説もあるらしい。二葉あき子の演じる歌手が結婚を期に歌手を引退するというのは、いかにも古い価値観だという気もします。後の1947年に「胸の振子」でヒットとなる霧島昇が男性の歌手の役で登場します。ラストの方のリンゴ畑のシーンが、なんとも多幸感にあふれ、とてもいい。ありし日の純情な日本人の日本映画という気がしました。
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プロフィール
HN:
えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
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