えいちゃん(さかい きよたか)

えいちゃんのぶろぐ

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ジョナサン・グレイザー監督の『関心領域』を見ました。アウシュビッツ収容所の隣の瀟洒な邸宅に住むナチスの高官の家族の淡々とした日常を描きつつも、恐ろしい映画になっています。家族は隣の収容所の巨大な煙突から炎や煙が上がって、薄々きづいているらしくも、知らないふりをしている。壁の向こうの収容所から人々の苦悩や苦痛の声、銃声が聞こえつつも、家族は何も反応しない。そのうえ、今の世界から、ぼくには家族の長の身につけている軍服の鉤十字、ハーケンクロイツ、逆卍が、今のイスラエルの六芒星に見えてしまう。今という時代の最悪の壁はガザを取り囲む壁ではなかろうか? ニュースによれば、ジョナサン・グレイザー監督は米アカデミー賞の受賞スピーチで、パレスチナ自治区ガザで続く戦争に焦点を当て、ユダヤ人としての自分たちの存在やホロコーストが、ガザでの(イスラエルの)占領行為(の正当化)に「乗っ取られていることに異議を唱える」と述べたという。戦争と分断の時代であるような今こそ『関心領域』は観るべき映画だと思いました。

映画『関心領域 The Zone of Interest』オフィシャルサイト
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新潮文庫の三島由紀夫の小説集『手長姫 英霊の声 1938-1966』を読む。表題の二つの小説以外に『酸模―秋彦の幼き思い出』、『家族合せ』、『日食』、『携帯用』、『S・O・S』、『魔法瓶』、『切符』を所収。その中で『英霊の声』のみ特異な小説だという印象を受けた。

『英霊の声』は1966年に発表された小説で、三島自ら、この小説を書くために、戦後を、恥を忍んで、鼻をつまんで生きてきたと語っている。この『英霊の声』は、大江健三郎の『セブンティーン』と『政治少年死す』、深沢七郎の『風流夢譚』から連なる、大江健三郎いわく「天皇制を持っている国家」について考えるための最も有力なテキスト、ナラティブではなかろうか。そして、この後に、大江健三郎の『みずから我が涙をぬぐいたまう日』が続く。

三島由紀夫も大江健三郎も深沢七郎も戦争を経験した人間として、人生のある時期、天皇制を内面化しており、これらの五つの小説は、それぞれがそれぞれに反駁しつつも、共通の志を持った、日本という国を考える上で、最も重要な小説なのかもしれない。

『手長姫 英霊の声―1938-1966―』 三島由紀夫
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レイナルド・マーカス・グリーン監督の『ボブ・マーリー ONE LOVE』を見ました。ボブ・マーリーが聖人のようには描かれていないところがよかった。ボブ・マーリーの伝記映画にして、名曲が次から次へと流れる音楽映画です。デヴューの「Simmer Down」からラストの「Redeption Song」まで、ボブはいつも同じことを歌っているようにも思えてしまう。ぼくは映画のエンドロールを見ながら、天国にいるボブ・マーリーにふと心の中でこう語りかけてしまうでです。

今、ガザでは病院や学校に爆弾が落とされて、毎日、子どもたちが殺されていく。ボブ、何か歌ってはくれまいか。

ついに「One Love」が響き始め、そのリズムと歌が世界に響きわたり、すべての圧制が無に帰し、すべての人たちが平和に生きられるように、願い、祈ります。

映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』公式サイト
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鶴見駅近くのサルビアホールギャラリーにて『山内若菜 予感展』で山内若菜さんの絵画、日本画を鑑賞しました。若菜さんの絵を見ると、その圧倒的なマチエールにとても心うごかされます。その実物の絵を見ていると、その描かれた具象以外にも、生きもののあらゆる森羅万象が現れては消えて、また現れるかのようで、見とれてしまい、あたかも不思議な輪廻転生のような、それは日本画を越えた日本画のようなのです。素晴らしかった。
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新宿末廣亭令和六年五月下席昼の部を見に行きました。見た演目を書き出してみます。前座の笑福亭羽太郎くんの「秘伝書」、二つ目の桂笹丸くんの「十徳」、三笑亭可龍師匠の「初天神」、一矢さんの「相撲漫談」、立川談之輔師匠の漫談、古今亭今輔師匠の「悪質商法騙され自慢」、ピロキさんの漫談、春風亭昇之進師匠の「お血脈」、桂歌助師匠の「桃太郎」、坂本頼光さんの活動写真弁士、神田陽子師匠の「五郎正宗孝子伝」の始まりのところ、桂幸丸師匠の漫談で中入りとなりました。春風亭昇吉師匠の「権助提灯」、ねづっちさんの漫談、桂竹丸師匠の漫談、三遊亭圓丸師匠の「堪忍袋」、きょうこさんの和妻、主任は桂枝太郎師匠の「茶の湯」。

後ろに座っていた年配のご婦人は、落語家さんには、漫談じゃなくて、落語をやって欲しいわよね、などと一緒に来ていた人に愚痴っておりました。ぼくも、そうだよな、と思ったりします。

今日、一等、印象に残ったのは、色もので、きょうこさんの和妻。着物を着て、座って演ずるこれは江戸様の手品、奇術。ありし日の吉原の茶屋ではこのような出しものがあったのではなかろうか、とぼくは想像をたくましくし、またしても、宝井其角の吉原を詠んだこんなダブルミーニングの俳句を思い出したのでありました。

 闇の夜は吉原ばかり月夜かな

和妻師 きょうこ
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白石和彌監督の『碁盤斬り』を見ました。元になった話は落語の『柳田格之進』で遊廓、吉原もからむ人情噺。

すべてのシーンが過度の明るさを廃し、美しい光と構図を持っていて、上品の浮世絵のよう。

一人娘と長屋に暮らす篆刻造りを生業とする浪人の武士、柳田格之進を演ずる主演の草彅剛さんの抑えた演技が素晴らしく、しかも、後半、怒りの感情を爆発させ、ダイナミックな大立ち回りもあり、そこも見せる。そして、柳田格之進の娘、吉原に身請けとなるお絹を演ずる清原果耶さんの可憐さ。けれども、映画のラストは落語の筋から離れて、映画的エンターテイメントとして、潤色されていて、そこも、とても良い。

吉原の大店の女将、お庚を演ずる小泉今日子さんも光っている。このお庚という役は、五歳で吉原に売られ、ついに女将に上りつめる冷っとしていながらも、どこか人情のある女性なのだ。この映画の中の吉原を見ながら、遊女による放火で何度も消失したという、苦海とも呼ばれた吉原という町を思い、江戸の俳諧師、宝井其角の二つの意味のあるこんな句を思い出していたのだった。

 闇の夜は吉原ばかり月夜かな

とまれ、ぼくは、柳田格之進のような人にどこか憧れてしまう。柳田格之進よ、もっと歩いてゆけよ。素晴らしい時代劇『碁盤斬り』が日本の映画史に加わったようなのです。

映画『碁盤斬り』公式サイト
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東京オペラシティコンサートホールで『パソナグループ「夢オーケストラ」第15回チャリティコンサート~能登半島地震 復興支援~』を見ました。演目は、べートーヴェンの「ロマンス第2番 へ長調」、クライスラーの「愛の悲しみ」と「愛の喜び」、ベートーヴェンの「交響曲第9番」。

数人の客演と指揮者を除き、オーケストラもコーラスもパソナグループの社員かその協力会社の社員であることに驚く。ぼくの友だちもコーラスに参加しているのですが、それぞれ、会社の勤務の後にこれを練習しているのだと思うと、人間の可能性について、ぼくは思いいたってしまう。

素晴らしき演奏に、指揮者の曽我大介さんの素晴らしい人間性も垣間見られ、演奏の後、「交響曲第9番」について、平和の方へ世界が進んでいることを信じることから始めなければ、平和は来ないし、そうすれば、いつか世界は平和になるのじゃないか、とおっしゃっておられた。プログラムに載せられた「交響曲第9番」の第4楽章のシラーによる詩にもこうあるではないか。

♪♪♪
君(歓喜)の柔らかな翼の下
時流が強く切り離したものを
君の不思議な力は再び結び合わせ、
すべての人々は兄弟となる♪♪♪

これらの演奏と合唱はぼくの胸に確かに力強く届き、その喜びの声は今日の曇り空の上まで響いているかのようでした。貴族からの庇護をよしとしない根っから民主主義者、自由主義者だったベートーヴェンも、空の向こうで、この市民オーケストラと市民のコーラスに喜んでいるのではないか、そんなコンサートでした。
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プロフィール
HN:
えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
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