えいちゃん(さかい きよたか)
えいちゃんのぶろぐ

森達也監督の『福田村事件』を見ました。『A』や『A2』などのオーム真理教の信者の事件後を追ったドキュメンタリー映画を作ってきた森監督の初のドキュメンタリーではないドラマは、実際に千葉の寒村で起こった事件を映画化したもの。
「序破急」の物語の「序」では長いある意味では平穏な村での人々の生活が描かれ、「破」の関東大震災が起こり、「急」の村ぐるみの陰惨な事件に流れ込む。「序」での描写の長さは冗長というより、「急」での事件を単なるスペルタスクせずに、問題提起とするための長さであるとぼくは感じた。柄本明さん演じる村人などのこの百年前の日本の村の貧しさにぼくは驚いてもしまう。なんというか、今は亡き今村昌平監督的世界でもあった。
映画を見終わった後の重たさは、見た人のすべての観客がうち沈むようであるけれども、それでも見てよかったと思う。どの出演者の演技も素晴らしく、特に悪いもの役かとも思われる在京軍人を演じる水道橋博士さんや新聞編集長役のピエール瀧さんのリアルさ。そして、被差別部落の頭目演じる永山瑛太さんがかっこいい。
たかだか百年前の事件である。二つのラストシーンの美しさとそのメッセージ。パンフレットを読みながらこう思う。ぼくたちは百年前に殺された人たち、生き残った人たち、殺してしまった人たちに今こそ会わなくてはならないのではなかろうか?
映画『福田村事件』公式サイト


ウィリアム・ワイラー監督の『ローマの休日』を見ました。テレビ画面のサイズでは何度か見たことはあったけれど、初めて映画館で見ました。
宮殿のような宿泊しているところからオードリー・ヘプバーン演ずるアン王女がお酒の配達の小さなトラックに忍び込んで抜け出して、ローマの街を走る車の荷台からひょこっと顔をあげて、あたりの様子を見るシーンから、オードリー・ヘプバーンの可愛いまぶしさがこれでもかこれでもかとスパークしまくります。アン王女とグレゴリー・ペック演ずる新聞記者の関係のあれこれなんざ、ゲスの極みのかんぐりで、それぞれの見た人の思惑にまかせときゃいいんです。
脚本も完璧に素晴らしくて、これを書いたダルトン・トランボは、当時、レッドパージ(共産主義、社会主義者への弾圧)でハリウッドから追放されているのを同じく脚本家のイアン・マクレラン・ハンターが手を貸して、初めのスタートロールでは「イアン・マクレラン・ハンター」の名がクレジットされているという逸話も残っております。後にイアン・マクレラン・ハンターもパージされるのだけれども…。
見た人の心と想像力をくすぐるいろんな仕掛けもあって、そこはこの名作を見てのお楽しみで、今、見ると、エディ・アルバート演ずる新聞記者の相棒のカメラマンもいいですな。(峰不二子とアン王女はまったく違いますが)この新聞記者と報道カメラマンの二人組はルパン三世と次元大介のようです。
それから、この『ローマの休日』を見ながら、日本の皇室の方や皇室だった方、愛子様、眞子様、佳子様がこれをご覧になられたら、どのような感想をお持ちになるのでしょうか? そんなことも気になりながら『ローマの休日』を見てしまう齢にぼくもなってしまいました。
この映画は1953年の作品ですが、実はこの年、日米映画決戦が開かれていたらしいのです。アメリカ代表がこの『ローマの休日』で日本代表が小津安二郎監督の『東京物語』だったらしいが、その勝ち負けの行方は、いまだにようとして知ることはできないらしいのです。
「ローマの休日 製作70周年 4Kレストア版」特設サイト


ニコラス・ジャック・デイヴィス監督の『ルードボーイ トロージャン・レコーズの物語』を見ました。ドキュメタリーと俳優らによる再現ドラマ、レジェンドたちのインタビューによる、Ska、Rocksteady、Reggaeと急激に変わっていったジャマイカの音楽と、スキンヘッドと呼ばれる不良に人気であったそれをイギリスでリリースしたTrojanという音楽レーベルの物語でした。いまだにぼくはクラブのようなところで大きな音でレコードがかかっていて、それに合わせて踊るのが好きだけれど、そこで一番かかって欲しいレコードはDuke ReidのTreasure Isleのレコードだったり、Coxson DotのStudio Oneのレコードだったりします。この映画『ルードボーイ』はそのTreasure IsleやそれをイギリスでリリースしたTrojanにまつわる興味深く楽しい音楽映画でした。家に帰って、TrojanやTreasure Isleのレコードを聴きたくなりますわな。
この映画を見て、イギリスでのジャマイカの音楽の貧しい不良たちの踊りながらの受容の仕方を振り返りつつ、音楽が人種やらを越えて、人を結びつける愛のような力はまさにあるとも思った次第です。そして、どっかに踊りに遊びに行きたいな。
映画「ルードボーイ トロージャン・レコーズの物語」公式サイト


東中野の映画館ポレポレで『ミャンマー・ダイアリーズ』を見ました。
今の軍政下のミャンマーで生命に危険がおよぶために匿名で映画を撮った10人の映画監督のクーデターのあった2021年の10編の物語に市民の撮影したドキュメンタリー映像がさしはさまれるこの映画は映画史に残るような傑作となっているような気がします。別々に撮られた10編の顔が秘匿された映像が生々しく同時代性を強く呼吸し、あたかもつながった連作のようでもあり、強靭な物語を喚起し、ドキュメタリーの映像とも有機的に連携し、驚くべき作品になっております。
ドキュメタリー部分の戒厳令下の街で人々の抗議の意味を込めての家の窓から鍋を叩く姿に、ぼくの眼に涙が溢れ出ます。この映画に感銘しめずらしく買ったパンフレットから引用します。
「さらに、誰でも比較的容易におこなえる抵抗と団結の意志の示し方として、決まった時刻と緊急時に一斉に鍋やフライパンなどの金物を打ち鳴らすことも繰り返された。これは、悪霊を追い払うという儀礼的な意味を持つ、人々の精神世界に深く根差した行為であった。」
あー、昔、ぼくの勤めていた会社に派遣社員として来ていたミャンマーの若者たちはどうなったのだろうかと安否が気になります。ぼくも映画を見ながら心の中で鍋やフライパンを鳴らしておりました。そして、人々に暴力をふるう軍の政府を未だに支援している日本政府にここで抗議し、ミャンマーの自由と平和を祈り、ミャンマーの人たちのことを忘れずに応援していきたいと思います。
ミャンマー・ダイアリーズ


ジェームズ・グレイ監督の『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』を見ました。ジェームズ・グレイ監督の自伝的な映画だという。舞台は1980年のニューヨーク。
この映画を見ながら、小学校の高学年から思春期、青春といくつもの小さな悪いことをしていたぼく自身を思い出すみたいでもありました。もちろん、今ではまったくそういうことはしなくなりました。そんな小さな悪いことよりも酷いことは、人を肌の色で差別するようなことだとも思う。
もしかして、この映画はまったく映画的な脚色のない自伝かもしれません。ハッピー・エンドとはほど遠い苦いラストにぼくはジェームズ・グレイ監督の一筋のメッセージを見るようです。何度か劇中で奏でられるClashの"Armageddon Time"は白人のパンクバンドがジャマイカのWillie Williamsの歌うレゲエの名曲"Armageddon Time"をカバーしたもので、白い肌の少年と黒い肌の少年の架け橋のような音楽かと思われます。
主人公のおじいちゃん役のアンソニー・ホプキンスがとてもいいです。
アルマゲドン・タイム ある日々の肖像


オンデマンドで黒澤明監督の『羅生門』を見ました。戦国時代の殺人を四者の視点でそれぞれ描いているこの映画は、芥川龍之介の小説『藪の中』を本案したものだそうで、このある出来事を別々の視点で描くことを「羅生門効果」と今では呼ぶそうです。是枝裕和監督の最新作『怪物』でもこの「羅生門効果」は使われておりましたな。
さて、閑話休題、何度かぼくは映画『羅生門』を観ていますが、今、見ればこの映画は敗戦を被った日本人の心の内を描いたものだとも思われました。当時の日本では、誰もが心の内にうすら暗い見ることの忌避される闇のようのものを抱えていたのではありますまいか? そして、ラストにヒューマニスト、黒澤明の希望の明かりが灯されています。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した1950年の『羅生門』は映画の歴史にも残る名作だと実感しました。


オンデマンドで小津安二郎監督の『浮草』を見ました。1959年の大映でのカラー映画。
二代目中村鴈次郎と妖艶な今日マチ子の凄みのある演技は文句なく惹き込まれ、その映像美に異様な何かも感じてしまう。脇をしめる杉村春子、若尾文子、川口浩も素晴らしい。物語は崩壊していく旅芸人一座の物語で、舞台を日本に翻案したジェームズ・ジョイスの中編か短編の小説かのよう。小津安二郎の芸術のもう一つの極北を見た。
これで、戦後の小津安二郎の映画をすべてを見ました。どれも素晴らしい。
今年の10月23日(月)から11月1日(水)に開催される東京国際映画祭では小津安二郎生誕120年、没後60年ということで、小津安二郎監督特集もあるらしい。大きなスクリーンで見る小津調が楽しみです。


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プロフィール
HN:
えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。


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