えいちゃん(さかい きよたか)
えいちゃんのぶろぐ



青森を旅した時に読み始めた太宰治の『津軽』を読了しました。これは太宰の故郷への愛に溢れた名作です。物語というものには、ほぼすべて、「起承転結」と「序破急」の二つの構造があるといはれていますが、この『津軽』の「序」で、限りなく長く太宰の故郷である津軽への愛が語られ、それに続く「破」と「急」の流れが小説として最高に美しい。太宰治の小説はその語彙とエクリチュールの豊かさによって、やはりとても面白くて、ぼくを惹き付けます。この小説が発表された1944年、昭和十九年、敗戦一年前、谷崎潤一郎は『細雪』を執筆し始め、三島由紀夫はデビュー作の『花ざかりの森』をものにしています。『津軽』を含めて、それぞれの当時の軍部への抵抗のようでもあるのです。


ケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』を見ました。
暗い夜のシーンが多いのとストーリーの流れがゆるやかだからか、時おり眠くなってしまいました。
舞台は18世紀半ばのアメリカ西部コロラドの森で美しい。吹きだまりのような小さな町には、白人、黒人、ネイティブ、アジア系の人たちと犬、猫、鶏。こんな背景を見ながらアメリカの歴史も確かに現代によって更新されているのだなとぼくは思います。誰かがその小さな町のはずれに一匹の雌牛をもたらします。その牛のミルクを無断でしぼり、主人公の白人のコックと中国系の流れ者の二人は、美味しいドーナツを作り、一山当てて、この森の中の吹きだまりから抜け出して、南の方へ旅立つことを夢見ます。さて、どうなるかは、ご覧ください。
これは21世紀になり、新たに作られたアメリカン・ニュー・シネマであり、歴史にあった過ちや忌まわしい悲劇を含みつつ、新たに発見された美しいアメリカなのではないかしら。
映画『ファースト・カウ』オフィシャルサイト




