えいちゃん(さかい きよたか)

えいちゃんのぶろぐ

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瀬戸内寂聴さんの著した『ひとりで生きる』を一気読みする。瀬戸内寂聴さんが亡くなられて早くも四年が経つのか、と思う。この本でもとりあげられていたお釈迦さまのことばの一つに「犀の角のようにただ独り歩め」があって、このことばはぼくの大好きな言葉でもあるのです。瀬戸内さんにとって「犀の角のようにただ独り歩め」は呪文だといい、このことばをとなえると「不思議に心はなだめられ、不如意も、怒りも怨みも消えてしまう」という。と同時に「忘己利他」を説く。「己を忘れ他を利するものは慈悲の極みなり」こそ生きる喜びにつながる、という。釈尊の最期のことばは「この世は美しい。人のいのちは甘美なものだ」。瀬戸内さんもこのことばをつぶやいて、人々の愛に感謝しながらこの世を去りたい、という。素敵です。ぼくはこの釈尊の最期のことばの前に「すべてはうつりゆく」があったような気もしながら、本を閉じました。うつりゆくものに献杯と乾杯をしたい。

ひとりで生きる | PRESIDENT STORE (プレジデントストア)
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国立能楽堂で能楽鑑賞。狂言は野村万作がシテをつとめる和泉流「野老(ところ)」、能は大坪喜美雄さんがシテをつとめる宝生流「綾鼓(あやのつづみ)」でごさいます。

「野老」では能狂言という舞いのある狂言にて、野村万作さんがシテとして芋の一種の野郎となって舞い、それをワキの旅僧の野村萬斎さんが祈祷し、成仏を見届ける。野郎は僧侶に食される饅頭となり成仏するのです。「山川草木悉皆成仏」でございます。狂言にはめずらしく客席は静まりかえっておりました。

能の「綾鼓」はこのような話。皇居の女御を一目、見た庭掃きの老人は恋慕の情にとらわれる。それを知った女御は臣下に、池のほとりの桂の木に皮ではなく綾でできた鳴らない鼓をくくりつけよ、と命じ、これを打ち、もし、その響きが宮廷まで届き、聞こえたならば、お会いしましょう、と庭掃きの老人に伝えよ、と言う。それを聞き知った庭掃きの老人は、毎晩、それを鳴らすが、鼓は鳴らない。老年によって、自分の耳が遠くなったからか、とも思い、何度も打つが鳴らない。ついに庭掃きの老人は池に身を投げる。臣下は女御に庭掃きの老人が身を投げた、と伝える。女御と臣下は庭掃きの老人の身を投げた池に来る。そこに鬼となった霊の庭掃きの老人が現れる。庭掃きの老人は女御に、もしも鳴るのなら鼓を叩いてみよ、と責めたてる。鬼となった庭掃きの老人は女御をむち打ち、池は大紅蓮地獄のようになり、庭掃きの老人の鬼は池に入っていく。女御と臣下は去り、演者らのすべても去り、舞台は鏡松のみとなる。

ぼくは、能舞台の鏡松が、禅の十牛図の九つ目で示される「返本還源」のごときものかもしれない、と思う。この前に見た能では、誰か、会場の後ろの方で、「能は無から来て、無に帰る」と言っておりました。「近代能楽集」でこの「綾鼓」を現代を舞台にした戯曲とし「綾の鼓」とした若き晩年の三島由紀夫は「能しか信じられない」ともインタビューで言っていたことが、何か、恐ろしい真実のようでもある、とぼくは感じられます。三島由紀夫の「豊饒の海」で描かれた「月修寺」は、能で幽玄に暗示するような、すべての人間の営みを無に帰す、なにごとかではありますまいか? 今のぼくに答えはございません。老人の域に足を踏みいれたぼくは、抜きさしならぬ戒めさえも感じ、恐ろしくも美しいと受け取ったのでございます。

内村鑑三にならっていえば、能楽は世界に冠たる代表的日本芸術であります。
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下北沢のラカーニャでパスカルズのロケット・マツさんのコンサートを見ました。入れ代わり立ち代わりのゲストのミュージシャンもあいまって、すばらしいライブでございました。無調のようでいて有調、無拍子のようでいて有拍子。ゲストミュージシャンのロケット・マツさんの弟さんである永畑風人さんがドン・チェリーのようにも見えてきました。そして、アンコールでのゲストの香川県から来た人の唄うパフォーマンスにはすばらしすぎて、ど肝を抜かれるほどでした。もう、音楽はパスカルズとロケット・マツさんしかない、などとぼくは思ってしまいます。
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新国立劇場の中劇場で鄭義信さんの脚本と演出による演劇『焼肉ドラゴン』を見ました。1969年から1971年までの関西のとある建設途中の空港の隣のバラックのコリアンタウンの焼肉屋さんを舞台に物語は進みます。

「EXPO’ 70」、「やったぜ、ベイビー」、「男は黙ってサッポロビール」、『伊勢佐木町ブルース』、『少年サンデー』、「アッと驚くタメゴロー」、「とめてくれるな、おっかさん背中のいちょうが泣いている」、『黒ネコのタンゴ』、「ボンカレー」、「Oh! モーレツ」、「クリープを入れないコーヒーなんて」、『世界の国からこんにちは』、時代は沸騰していたし、そんな時代の『焼肉ドラゴン』の舞台の町は、その人と人との間の濃厚さによって、毎日が祝祭のようで、いろんな事件も発生します。この町は、まるでガルシア・マルケスの小説の架空の町、マコンドのようでもあり、中上健次の小説の路地のようでもあるのです。人と人の地場と重力により人びとが集う自由の町のようでもあるのです。後半、町は近代の暴力に抗いきれず、崩壊します。会場のいろんなところからすすり泣きが聞こえてきました。そして、ぼくの涙腺もついに決壊しました。

分断といわれる今の時代でさらに鋭く問題を投げかける『焼肉ドラゴン』は2008年に初演されました。読売演劇大賞の大賞と最優秀作品賞、朝日舞台芸術賞のグランプリ、鶴屋南北戯曲賞、紀伊国屋演劇賞の個人賞、芸術選奨文部科学大臣賞にも輝いております。名作に感動しました。
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平塚市美術館で『国立劇場の名品展—鏑木清方、小倉遊亀、東山魁夷、髙山辰雄、加山又造…』を見ました。今は工事もどうなるかわからない状態で国立劇場が閉鎖せれておりまして、その国立劇場が所蔵し、ところどころに展示されておりました絵画作品が一時避難しており、その展覧会です。日本絵画の名作品のしかも大きな絵画が三十六点、そろって見れます。東山魁夷の「雪原譜」の青い色の美しことよ。

ところで、今の政府は、この国立劇場の状況を見ても、伝統については冷淡であるようです。ほとほと困ったことで、今の自由民主党も維新の会と同様、保守とはいえませんな。最近、思うのですが、もっと早くに日本の伝統の芸能や芸術に目覚めればよかった、ような気もしています。齢をとらねば分からぬことでありましょうか?
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国立能楽堂で能楽を見ました。狂言は髙澤祐介をシテとする和泉流「胸突(むねつき)」。能は観世喜正さんをシテとする古式の観世流「自然居士(じねんこじ)」。

「胸突」は借金の貸し手と借り手とのやりとりで、いつしか借り手の方がいばり始めます。このあたりが落語の元祖かと思われる、おおらかな笑いの話でした。

「自然居士」は世阿弥の父、観阿弥の名曲であります。仏の法と俗の法の葛藤が超克され、稚児も僧も救済されます。ダイナミックな話法と曲に惹かれてしまいました。
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十二月十九日、新宿末廣亭にて令和七年十二月中席昼の部です。見た演目を書き記します。前座の桂あま夏くんの「英会話」、二つ目の桂笹丸くんの「尻餅」、三遊亭遊喜師匠の「寄合酒」、北見伸さんの奇術 、春風亭愛橋師匠の「洒落番頭」、昔昔亭桃之助師匠の「親子酒」、一矢さんの相撲漫談、三遊亭愛楽師匠の「品川心中」、三遊亭圓雀師匠の相撲取りの噺の新作落語、林家今丸師匠の紙切り、春風亭柳好師匠の「大師の杵」桂小南師匠の「ハワイの雪」でお仲入りです。松廼家八好さんの幇間芸、瀧川鯉昇師匠の「鰻屋」、やなぎ南玉さんの曲独楽 、主任は柳亭小痴楽師匠の「文七元結」でした。

印象にとくに残った演目です。桂笹丸くんの「尻餅」はおかしかった。北見伸さんの奇術の飄々とした味がよく、お弟子さんの女の人の一人でするマジックも新鮮でした。三遊亭愛楽師匠の「品川心中」の男女のやりとりのおかしさ。松廼家八好さんの幇間芸は浅草に世界で五人しかいない幇間なのだそうで、そのばかばかしさに笑ってしまいます。瀧川鯉昇師匠の「鰻屋」のこのとぼけた感じが落語のど真ん中を突いているかのようで、好きです。やなぎ南玉さんの曲独楽 の見事さ。

主任の柳亭小痴楽師匠の「文七元結」について感想を述べなくてはなりますまい。長いこの噺を寄席のサイズにどう料理するか、真ん中の滑稽噺のみを語っておられました。爆笑となりますが、何か物足りない。真ん中の前の段で噺の合点への導きとなり、真ん中の後の段でこの噺は胸に染み入りますが、それがないことがうらめしい。五街道雲助師匠はその御本『雲助おぼえ帳』で「でも、このネタ、部分カットで短くするなんてことはできないですよね」とも言っておられます。相模原での二つ目披露公演での鈴々舎美馬さんの「文七元結」では後半、客席は水を打ったかのように静まりかえって聴き入っておりまして、素晴らしくて、度肝を抜かれました。また、あのような、長講の「文七元結」をホール落語で、ぼくは聴きたく存じております。

とまれ、暗いこの世のつらさ忘れ、寄席は心のオアシスです。
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プロフィール
HN:
えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
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