えいちゃん(さかい きよたか)
えいちゃんのぶろぐ
平山周吉さんの著した『満州国グランドホテル』を読む。前の大戦での中国での戦争において日本が「王道楽土」、「五族協和」を謳い、でっち上げ的に作り上げた満州国を、グランドホテルに見立て、そこに出入りした、さまざまな人たちを一人一回、一章で取り上げ、全三十六章、全565頁の大著であった。
その冷静な筆致に満州国に出入りした魑魅魍魎のような人たちがくっきりと浮かび上がりかのようで素晴らしい。三十六人の人以外の超有名人、甘粕正彦、岸信介、李香蘭などは何度もこの本に登場する。
ちなみに甘粕正彦はベルナルド・ベルトリッチ監督の『ラストエンペラー』で坂本龍一に演じられたけれど、この映画の描く満州国はそのさまざまな細部においてフィクションばかりの嘘ばかりなのを思い出す。坂本龍一さんはベルトリッチ監督の甘粕正彦の割腹自殺の最期を抗議し、ピストル自殺に改めさせたが、それすらフィクションで、史実は青酸カリの服毒自殺であった。この『満州国グランドホテル』や山口淑子(李香蘭)の著した『李香蘭 私の半生』によれば、天皇が敗戦を宣言するその前日か何かに満洲映画協会の社員が一同集められ、甘粕は敗戦を明らかにし、日本女子はその貞節を最後まで貫かなくてはならないと言い、全女子社員に小さな宝石箱が配られたという。その集会が終わり、宝石箱を開けると、中には致死量の青酸カリが入っていたが、それを服用し、自殺する人はいなかった。事実はベルトリッチの考えたフィクションよりも奇なり。
さて、『満州国グランドホテル』に戻り、最終章の「第三十六回 「北海道人」島木健作が持ち帰った一匹の「満州土産」」では柄谷行人の批評文も引用しつつ、満州国に批判的に迫ろうとしている。あまりに鋭い柄谷さんの文を引用する。
「この点にかんして参照すべきものは、日本と並行して帝国主義に転じたアメリカの植民地政策である。それは、いわば、被統治者を「潜在的なアメリカ人」とみなすもので、英仏のような植民地政策とは異質である。前者においては、それが帝国主義的支配であることが意識されない。彼らは現に支配しながら、「自由」を教えているかのように思っている。それは今日にいたるまで同じである。そして、その起源は、インディアンの抹殺と同化を「愛」と見なしたピューリタニズムにあるといってよい。その意味で、日本の植民地統治に見られる「愛」の思想は、国学的なナショナリズムとは別のものであり、実はアメリカから来ていると、私は思う」
さて、この『満州国グランドホテル』に登場するのは軍人、官僚、映画人(笠智衆、原節子、小暮美千代)、文学者(小林秀雄)、小説家、言論人(石橋湛山)、右翼活動家(世界的なクラシック音楽の指揮者小澤征爾さんの父)などエリート層ばかりで、一般の民間人、開拓民、庶民は後景の遠のいている。そのことについて、平山周吉さんは深く後悔しているらしいことを「あとがき」で知った。第五回の八木義徳のに出てくる、八木の聞いた満鉄に揺られながらの夫婦の言葉「広うおまんな、広うおまんな」が常に平山さんの胸に、その後、その夫婦はどうなったかのかという思いとともに繰り返されたという。その声にまだ十代の若さのぼくの亡き父の「広いのう、広いのう」という九州弁が重なるかのようだ。敗戦後、生死をさまよう辛酸をなめて帰国したらしいが、父がそのことを詳しく語ることはなかった。本を閉じる。
<< 佐野元春のコンサート
HOME
Frente Cumbiero 民謡クルセイダーズ 民謡クンビエロ >>
[2593] [2592] [2591] [2590] [2589] [2588] [2587] [2586] [2585] [2584] [2583]
[2593] [2592] [2591] [2590] [2589] [2588] [2587] [2586] [2585] [2584] [2583]
この記事にコメントする
カレンダー
えいちゃんのお奨め
カテゴリー
最新コメント
最新記事
(11/24)
(11/24)
(11/24)
(11/22)
(11/22)
(11/20)
(11/19)
プロフィール
HN:
えいちゃん
性別:
男性
職業:
S.E.
趣味:
音楽
自己紹介:
音楽を演奏したり聴いたりするのが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
歌ってしまいます。そしてギターも少々。
Sam CookeやOtis Reddingなど古いR&Bが好きです。
ブログ内検索
最新トラックバック